東東京MAP

We believe that we will be able to make a new world
and value things correctly with the creativities
SUPPORTED by SELF

今の時代にふさわしい“がま口”を創出していく|ヴェールポイント

Update: 2024.01.17|CategoryTOPICS, よみもの

足立区舎人。手仕事を得意とする職人が点在するこの下町に、ヴェールポイントの社屋がある。明治から三代続く革製品の工房だ。モダンな社名は、三代目を受け継いだ佐藤昭浩さんが1999年に代表取締役となり、法人化も果たした際に改称したものだ。
「『ヴェール』はフランス語で緑を意味する言葉。たくさんの草木や花々が咲き、人々が憩いを得られるような場所になることを目指して命名しました」と、佐藤さんは社名の由来を教えてくれた。

ヴェールポイントの特色を一言で表すとすれば、がま口だ。明治初期、政府の御用商人として欧米を周遊していた山城屋和助がフランスから持ち帰ったのが、国内で流通するきっかけといわれている。簡単に開閉できる口金の仕組みは庶民に受け入れられ、がま口の財布やカバンは大きな流行となった。
同じ明治時代に設立されたヴェールポイントも、そうした動静を生み出した立役者の一角だ。業界では「がま口の佐藤」として知られ、今日に至るまでがま口を使った多彩な製品を世に送り出してきた。
「祖父と祖母が布製のがま口製品をつくり始めたのがはじまりです。父や叔父も職人の道を継ぎ、父は革素材も含めた財布作りを、叔父は口金製造も学んで事業の幅を広げてきました。私は高校を卒業後、外の世界で学びを得るべく大手バッグメーカーに入社し、そこで十数年ほどレザーバッグ製造や営業活動を経験させてもらったんです」

ヴェールポイントの強みは、三代掛けて積み重ねられたがま口作りのノウハウだ。フラップやファスナーを使った製品の場合は平面的で箱状の構造であることが多いが、前後に開く口金の多くは立体的で袋状だ。仕様書通りでは表現できない表現の機微を熟知し、手間暇をかけて製造しているという。
「ほんの1~2mm生地をずらすだけで、ふっくら感が大きく違うんですよ。うちの職人からも『面倒な作り方をしている』とよく言われますが(笑)、そのひと手間で最終的な仕上がりがまったく変わってくるんです。それに口金を取り付ける際もガイドのようなものがありませんから、職人の勘に頼りながらの作業になります。モノを入れるという機能の点でいえば影響しないところではあるのですけど、見栄えのよさというプラスアルファに価値を感じてくれるお客様は少なくないと思っていますから」
さらにヴェールポイントでは、口金部分に革素材を巻きつける技術も得意としている。きれいに巻くには熟練職人でも1時間に4~5個しかできないというが、それによって安価ながま口にはない高級感を醸成できている。

佐藤さんが代表取締役となって以降、厳しい景気状況が続いたが、メンズ/レディース双方の財布のOEM生産を主軸に堅調な経営を続けてきた。サンプル作成の依頼も、強いこだわりのある職人目線で実施。要望には迅速に応え、自社内で生産まで完遂できることも、多くのクライアントから支持されている理由だ。
「近年はキャッシュレス化の影響か、財布の売上が縮小傾向にあるようです。その流れは今後も進んでいくと思われますので、財布に縛られず、この機にがま口の魅力を見直してみようと考えているんです。手軽にモノを入れられる容れ物と考えれば、今の時代にふさわしい用途もあるはずですから。良く悪くもがま口についてまわる『和』や『伝統品』というイメージからも離れ、今の若い人にも受けれられる製品をお見せしたいんです」

そうした想いから始動したのが、オリジナルブランドの「トネリコ」だ。厳選された高級革を使い、色鮮やかなカラーリングでファッションに敏感な女性層に訴求。財布として使える製品に加え、スマホが入るミニショルダーなど、今どきな製品もラインナップした。
「もっともっと、若い人にがま口のよさを知ってもらいたい。そういうコンセプトで商品開発を進めました。ただ私たちは作り手であって、どうやって売っていけるのか、どうやって製品のよさを訴えればいいのかは専門外。それもあって、東東京モノヅクリ商店街の力を借りたいと思って参画したんです」
東東京モノヅクリ商店街において、「トネリコ」の魅力が伝わるような販促物やホームページの制作を進行。2024年2月のギフトショーで華々しいデビューを飾るべく、綿密な計画を練っている。

東東京におけるモノヅクリの担い手の一人である、佐藤さん。職人の高齢化や後継者不足、産業の空洞化といった問題を肌身に感じているというが、一方で明るい兆しも感じているという。
「ここにきて国内生産の回帰というようなものを感じていますし、『モノヅクリの世界で飯を食っていきたい』という若い人の存在を耳にすることもあります。今の問題が解決に向かっているかといえば難しいのですけど、少なくとも革製品自体は絶対になくならないと思っていますし、昨今叫ばれているSDGsにも即した素材です。私たちの製品はまだまだ多くの人に受け入れていただけるものと考えています」

INFORMATION

〒121-0831 東京都足立区舎人五丁目18-12
TEL: 03-3856-9876
URL : http://www.vert-point.jp/