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心の拠り所となるシンボルを作り続ける|富士製旗

Update: 2024.01.17|CategoryTOPICS, よみもの

千代田区東神田。たくさんの問屋が軒を連ねる浅草橋エリアに、富士製旗のオフィスがある。地上4階建てのビルで、高層階の窓の向こうには穏やかな神田川の眺望が広がっている。
「ここは多くの繊維問屋が集結した場所でしたから、事業を営むのに都合がよかったのだと聞いています」

そう答えてくれたのは、二代目である代表取締役の三上孝次さんだ。富士製旗では優勝旗や社旗、国旗といった旗を始め、のぼり、記念品、ハッピなど、さまざまなシーンで“ハレ”を象徴する品々を製造・販売している。

大元のルーツは京都にあるという。1873年、京都府室町に創業し、祭りで用いられる旗の製造などを行っていた三上装束店(現・三上旗)がそれだ。1907年に東京へ進出。東京オリンピックでも多くの旗類を製作し、日本武道館で掲揚された国内最大級の日の丸も同社が手掛けたものだ。

「僕らの親族にあたるところです。父・継男はそこで20年ほど勤務した後、暖簾分けのような形で1970年に独立しまして、富士製旗を起業したんです」
以降は布製高速オフセット印刷機や多色刷り用オートスクリーン機械、両面刷り転写機などを積極的に導入し、魅力ある製品の開発に注力していった。

富士製旗が成長した原動力となったのは、日本プロ野球界との強い結束だ。
1970年代後半、父・継雄さんがアメリカ・メジャーリーグで小旗を使って応援する様子を見て、国内への導入を画策。球団との交渉でロッテ、近鉄、大洋と直接契約を結び、その後も他球団に採用され、応援小旗は富士製旗の主力製品になった。さらには優勝した際の記念グッズやチームが刷新したときの新球団旗の製造も担い、現在も強固な関係を堅持している。
「日本ポニーベースボール協会という少年野球団体も協賛していまして、年間1000個くらいのメダルを寄贈しています。子供たちが嬉しそうにメダルをもらっている様子を見ると、こちらもすごくうれしい気持ちになるんです。そういう、一生の想い出になるかもしれない一瞬に関われるのは、すごく光栄なことだと思っています」

事業の看板商品が、刺繍で特別に誂えた旗。学校や会社、組合、工場といった組織のシンボルとなる存在だ。予算やニーズによって手刺繍とミシン刺繍とが用意され、手刺繍はいっそうの費用と時間が必要になる半面、特別な縫い方や肉盛り表現といったことが可能になる。旗の三辺にはフレンジと呼ばれる飾りが取り付けられ、豪華な雰囲気を演出する。
「各地で新しい工場が作れていますし、近年は創立100周年を迎えて旗を刷新しようという学校も多いんです」
ただ、旗の手刺繍ができる国内の職人の数は年々減少する一方だと三上さんは打ち明ける。日本の刺繍職人が技術指導を行った人材が韓国や中国にいるものの、現地の物価高や国内の円安といったコストの問題がつきまとう。フレンジ製造も、おそらく国内では2社、それも個人経営レベルでやっているところを残すのみだ。
「日本のモノヅクリという視点からは不安な気持ちばかりが募りますが、私たちが誇る製旗技術がこれからも受け継がれていくよう、どうにか取り組んでいきたいと考えています」

「お誂えの旗」の売上は事業全体の約1割ほどである一方、約4割ほどを占めているのが昇華転写技術を使ったのぼりやのれんの製造だ。ポリエステル系生地に多彩で高精細な印刷を行えるのが特徴で、小ロットからでも比較的安価に製造できる。期間限定のキャンペーンを実施する飲食チェーン店の販促品などにもよく利用されているという。
この他、創業時から続いている染色製品が事業売上の約3割を、トロフィーやメダルなどの顕彰品が約2割を構成している。
「まだ売上には結びついていませんが、近年は染色技術への関心が高まっているように感じています。主に使われるのは綿素材で、昇華転写のように鮮やかな色表現はできないのですが、味わい深さが魅力です。大手百貨店から大型のれんの発注があったように、インバウンド需要の高まりや素材や製法にやさしいサステナブルな意識から、昔ながらの染色製品に注目が集まっているのではないでしょうか」

こうした考察を背景に、三上さんがひとつの活路を見出しているのが半纏作りだ。企業の販促品に使われるような昇華転写技術による派手なデザインではなく、染色技術を駆使した昔ながらの半纏の製造を企画。素材には肌触りのいい綿を使用し、“日本のモノヅクリ”を前面に押し出そうとしている。
「僕は深川の生まれで、深川祭では毎年神輿を担ぐのですが、そのときに半纏を着て歩いている人たちを見るとすごく嬉しい気持ちになるんですよね。旗とはまた違った、関係者たちのシンボルとしての形があって、かっこいいんです。浅草へいくと浴衣や着物を着ていらっしゃる人は多いですけど、そこに半纏も仲間に入れてほしいなと思っています」
これまでは発注を受けて半纏を製造してきたが、今回はオリジナルブランド『富士半纏』を設立し、自社での販売を計画。東東京モノヅクリ商店街に参画したのも、この『富士半纏』の事業展開を図ってのことだ。ブランディングや販売戦略などを一つひとつを前へ進め、認知を拡大していく。

時代の移り変わりによって需要やモノヅクリの担い手も変化しているものの、“旗屋”を求める想いはなくならないはずだと三上さんは確信している。
「特定の目的のもとで複数の人が集まり、一緒に行動しようという社会性がなくなることは今後もなくならないでしょう。そうした組織において、想いをひとつにするシンボルは極めて重要です。求められる形は変わるかもしれませんが、時代の変化を見据えつつ、心の拠り所となるものを作り続けていきたいと考えています」

INFORMATION

富士製旗株式会社

〒111-0053 東京都台東区浅草橋1-4-4 齋藤サンエスビル3階
TEL: 03-3861-5565
URL : https://www.fujiflag.co.jp/