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型抜き屋として“型にとらわれず”可能性を追求する|精工パッキング

Update: 2021.12.22|CategoryTOPICS, よみもの

60年以上にわたり、東京・葛飾区高砂に居を構える精工パッキング。「出来ないを出来るに変えるモノづくり」を目指し、独自の型抜き加工技術を研究し続ける“抜き屋”だ。平板打ち抜き加工機を使い、ゴム、ウレタン、発泡品、スポンジ、両面テープ、フェルト、不織布、紙類など、要望に応じてあらゆる素材の加工を行っている。
「我々がこだわっているのが寸法精度です。たとえばゴム素材であれば、0.3mmの細さで打ち抜くこともできるんですよ」
そう話してくれたのは、3代目社長の平井秀明さん。会社の代表であり、この道一筋の職人でもある。

会社の創業は1961年。祖父・平井一郎氏が作った平井美術印刷所が前身で、もとは化粧品のパッケージなどのデザインおよび印刷を手掛けていた。やがて打ち抜き加工にも着手。祖父が亡くなって息子が後を継ぐとき、打ち抜き加工業に将来性を見出したことで“抜き屋”へと転身した。
なお、精工パッキングではビクトリア型と呼ばれる平板打ち抜き加工機が使われているが、その名称は印刷の際に使用されていたビクトリア型活版印刷機を改造したことに由来している。
現社長の平井秀明さんが入社したのは、18歳のときだ。
「高校卒業後はスキーショップでアルバイトをしていて、まさか実家を継ぐことになるとは思いもしませんでした。でも、高めの給料と自動車免許取得の費用をエサにされて入社を決めたんです(笑)」
それからおよそ25年にわたって職人としての技術を体得。徹底して打ち抜き加工の技術力を磨いていった。

 

ビクトリア型平打ち抜き加工は、ビクトリア刃と呼ばれる刃を埋め込んだベニヤ板を利用して素材をまんべんなく加圧し、望みの形状に打ち抜く仕組みだ。
「バチンとプレスして打ち抜くわけですが、道具がそろえばだれでもできるわけではありません。寸分の狂いもなく加工するにはさまざまな技術が必要なんです。たとえば重要なのが、素材の下に敷いたスポンジの種類。打ち抜く際は素材が加圧されるわけですが、それに対して適切な反発力がなければ裁断面が斜めになったり精度が不確かになってしまいます。打ち抜く素材の材質や硬度、厚みなどに応じて、毎回適切なスポンジを用意しなければならず、そこは職人の経験と勘が活かされているのです」

精工パッキングの高度な技術力を示す一例が、“世界一細い”と自信を覗かせる幅約0.3mmの「かつしか極細輪ゴム」だ。通常の輪ゴムは筒状に成形したゴムを輪切りに成形するが、精工パッキングでは平板のシリコンを利用。最初に内側を打ち抜いた後、直径をほんの少しだけ大きくした刃で再び打ち抜くことで、細さ約0.3mmの輪ゴムが完成する。わずかでも狂いがあれば簡単にちぎれてしまうため、精度の高さを証明する製品となっている。

精工パッキングが手掛ける製品は、インクカートリッジのパッキンやベルトの芯材、一眼カメラや冷蔵庫、自動車といった工業製品の部品など、実に多岐にわたる。ただ、以前は営業活動や企業アピールの不足から、「なにをやっているかわからない会社」と思われていた時期もあった。
「1989年に現在の社屋を建てました。町工場としてはかなり設備が充実したほうなのですが、見学に訪れた人に設備やら作業工程やらを真似されて、売上の大部分を持っていかれたことがあったんです。それ以来、工場には部外者を絶対に入れさせない方針になりました。

ただそれによって、周囲との関係が希薄化して……。私が2015年に社長を継ぐことになり、約30年間所属していた葛飾ゴム工業会であらためて挨拶に回ったのですが、『精工パッキングって何屋さんなの?』『抜き屋さんなの? 知らなかった』といった声を多くの人から聞いたのは衝撃的でしたね」

それからは工場にメディアを招き入れたり、ホームページを充実させたりと風通しのいい企業へと改革。自社の技術力をアピールするきっかけとして、前述した「かつしか極細輪ゴム」などのオリジナル商品も開発した。
そうした広報活動が実り、最近では新規クライアントからの依頼が毎月10件前後も入ってきているという。それも日本全国から、クラウドファンディングでの商品開発を目指す個人や大手企業など、さまざまだ。コロナの影響もあり、従来の取引先からの依頼は激減しているものの、こうした新規案件のおかげで売上は好調だという。

 

自社アピールの目的として、カラー塩ビを使った収納ケース「ポレット」も開発した。スナップボタンやファスナーなどを設けず、素材自体が持つ粘着力で留められる変わった仕組みで、クラウドファンディングで出資を募ったところ目標の約8倍にあたる約80万円を獲得。メディアでも取り上げられ、精工パッキングの名が全国に広まるきっかけになった。
「こうしたチャレンジは今後も継続し、ある程度のブランドとして確立させていかなければならないと考えています。東東京モノヅクリ商店街に参画したのも、これが理由です。ブランディングやマーケティングを勉強し、新たなカタチにしていきたいと考えています」

2021年9月には、消費者に製品を直接送り届けるためのEC販売専門会社「ひろがる未来」を設立した。まずは自社製品の販売からスタートし、ゆくゆくは葛飾区内にある他の町工場が手掛ける製品なども取り扱っていきたいという。またYouTubeも積極的に活用し、動画配信によるPR活動も進めていく考えだ。
「普通の町工場がやることとは違っているのでしょうけども、型にとらわれず、可能性を広げていきたいと考えています」

INFORMATION

有限会社精工パッキング

〒125-0054 東京都葛飾区高砂3丁目28−18

TEL: 03-3659-2125