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三代にわたる靴作りの知見を活かしていく|ピース

Update: 2023.01.13|CategoryTOPICS, よみもの

北千住駅から少し離れた場所に広がる、閑静な住宅街。そこに佇む3階建ての建物が、専務取締役である山崎憲ら家族の住居と、革靴・革小物製造のアトリエを兼ねたピースの所在地だ。1階にはピース代表である父の毅さんがデザイン設計を行う製図台が置かれ、3階に憲さんが作業するためのアトリエが設けられている。
「日中、ずっとここで過ごすことが多いですね。靴や革の中心地である浅草へも10分程度で行ける場所なので、便利なんです。また靴づくりの講習会を開催することもあり、ここに生徒さんを呼んで授業することもありますよ」
アトリエにはミシン台や専用の工具、型紙、木型などが適所に置かれており、モノヅクリの原点を感じさせる。

憲さんの家系は、祖父の代から製靴職人として活躍してきたという。父の毅さんはフランスやイタリアで修行し、帰国後は最高級のピスポーク(オーダーメイド)も手掛ける一流の職人として名を馳せた。現在も製造に携わる一方、技術指導員として製靴職人を育てる役割も担い、日本の靴作りを根底から支えている。
「もともとメーカーとして月に何百足と製造しては問屋に卸していたのですが、2000年を過ぎる頃には世の中の景気が悪化し、設計図やサンプルの制作など靴作りにおける上流工程を提供・助言する事業に転換したのだそうです。その頃、僕は社会人になりたてで他で働いていたのですが、靴作りに魅力を感じ始めていて、結局父と一緒に会社をやっていくことにしました」
その後は父から靴作りを教わるだけでなく、父と同じイタリアの学校にも留学し、靴にまつわる文化や価値観についても見識を深めたという。現在は憲さんも東京都の職業訓練校で講師を勤めるほどの腕前だ。

ピースの強みは、親子三代にわたって育んできた圧倒的な経験と技術力の高さにある。機械や製造技術が日々アップデートされているといっても、「品質をもう一段階高めるテクニック」や「品質を落とさずに作業工程を簡略して低コスト化するノウハウ」、「生産数を高めるアイデア」といったものまでは簡単に手に入らない。ピースは、依頼を受けたメーカーの現状と課題を精査した上で、よりよくなる方法をアドバイスしている。
「メーカーは大きくなるほど分業制になり、『ものすごく早くアッパーを縫えるのに、ソールの貼り付けはまったくできない』という職人も少なくありません。私たちはすべての工程を理解していますから、全体を俯瞰した上で足りていないところや無駄なところがよくわかるんです」

ピースは、この他にも小ロットのOEM生産やプライベートブランド「ハロ」の展開も行っている。「ハロ」は2010年に憲さんが一人で立ち上げたもので、革の魅力をいかしたモノヅクリにこだわっている。
「愛犬の首輪を自作したのがきっかけでした。素材や製法に関する自分なりのこだわりを詰め込んでモノで、周囲の評判もよかったものですから、ブランドとして展開することにしました。靴やスマホケース、手帳カバーなど、現在までに50点ほど製作しています」
直接消費者に届けるBtoCビジネスとして新たな事業となっただけでなく、ピースの優れた技術力やモノへの想いをカタチにしたシンボルとしても役立ち、展示会でも活用しているという。

東東京モノヅクリ商店街に参加したのは、そうしたピースの特長や魅力を広く知ってもらいたいとの想いからだ。
「幅広くやっているからこそ、『何屋さんなんですか?』と聞かれても一言で応えにくくて。ホームページやパンフレットを作って、もっとわかりやすく伝えられるようにしていければと思っています」

低価格な海外製品の流入やライフスタイルの変化を受け、革靴市場を取り巻く苦境は続いている。
「どれだけ見た目がよくても、職人からするとアジア製の安い製品は丁寧に作った日本製と大きく違います。たとえば屈曲性を考えた素材選びや丁寧な縫製が行われていないものが多く、履き心地に難があるんです」
ただ、近年ではそうした違いを理解した消費者が拡大し、日本製を選ぶ人が増えているように感じていると憲さんは打ち明ける。
「使ってみて『やっぱり日本製のほうがいいよね』と実感した人が増えてきているのだと思っていて、そこに可能性を感じています。いつかはもう少し大きなアトリエを作って、もっといい仕事をしていきたいですね」

INFORMATION

株式会社ピース

〒120-0025 東京都足立区千住東2-19-16

TEL: 03-6326-2302