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かるたは、ずっと心に残る言葉や文化を伝えるツール。|奥野かるた店

Update: 2019.12.29|CategoryTOPICS, よみもの

書店巡りに勤しむ人々や多くの学生が行き交う神保町・白山通り。昔ながらの店舗で賑わう中、一際ノスタルジックな雰囲気を醸し出しているのが奥野かるた店だ。ショーウィンドウの色鮮やかなかるたに惹かれて店内に入ると、囲碁や将棋、トランプ、麻雀、花札など、室内で遊ぶためのゲームが所狭しと並んでいる。
「以前はプラモデルやぬいぐるみ、テレビゲームなども取り扱う『オモチャ屋さん』でしたが、いまはこうしたアナログのゲームを中心にしているんですよ」と出迎えてくれたのが、店主であり4代目社長の奥野誠子さんだ。

初代・奥野一香氏は将棋指しであるとと同時に駒を作る彫師で、息子で2代目の徳太郎氏は1921年に将棋板や囲碁などを扱う問屋・奥野商店を設立。3代目の伸夫氏が1952年に小売業にも事業を拡大。神保町内で何度か転居を繰り返し、現在の地に落ち着いたのは1979年のことだ。
「任天堂の花札やトランプを扱っていましたから、そのままファミコンも販売するようになったのですけど、当時社長だった父・伸夫はアナログゲームを中心にやっていきたいと考えまして、改装を期に商品構成を変えたんです」

奥野かるた店は問屋業、小売業ときて、1980年代の終わり頃からメーカー業にも参入。毎年数種類のオリジナルかるたを企画販売するようになっていたことも、アナログゲーム中心という方向転換の理由だった。
「流行の商品を手放したことで売上は苦しくなりましたが、そこは父なりのこだわりと、ありきたりなお店を続けてはいつか潰れてしまうという危機感があったのでしょう。今ではおかげさまで、かるたといえば奥野かるた店といわれるようになりましたから。そうしたこだわりは、これからも大切にしたいですね」

子どもの定番ゲームのひとつだったかるたは次第に利用者や利用頻度が減り、親戚が集まる正月に遊ぶくらいになりつつある。しかしかるたには、他にはない魅力があると誠子さんは語る。
「年齢に合わせて適切なかるたで遊ぶことは、吸収力のある子どもにとって世の知恵や文化を身につける機会になります。『犬を歩けば棒に当たる』『花より団子』といった言葉や意味を知って育ってもらいたいと思いますし、そうした言葉が大人になったときに、目の前の困難に対処するための心構えや身の振り方に役立つこともあると思うんです」
試験では役に立たずとも、かるたに書かれた言葉は人生になにかしらのプラスになるはずだ。それにコドモノクニの童画で有名な武井武雄や木版画家である川上澄生のかるたは、絵柄を見るだけでも豊かな感性を育んでくれそうだ。

もちろん、昔ながらのかるただけに固執しているわけではない。うつる病気を学べる「感染症カルタ」、組み合わせで化合物を作る「イオンカード」、野菜と花を組み合わせる「野菜カード」など、日夜個性的なオリジナル商品を開発している。
「個人で情報を発信するSNSが一定の人気を得ているように、心を打つモノは人それぞれ。ひとつのヒット商品で数多く売れればいい時代ではなく、たくさんの中からひとつでも感動できる商品があればいいと考えています」
技術の向上からかるた製造に参入する印刷業者が増加し、比較的容易にかるたを作れるようになってきた。しかし、奥野かるた店は数十年にわたってこの世界に携わってきただけに、札の質や仕上がりには人一倍のこだわりを持っている。そこも、愛好者が絶えない理由だ。

とある教育委員会が小学生に配布するためのかるたを製造するなど、最近では特定の団体や個人からの依頼も増えてきているという。また、海外観光客に向けた商品の開発も事業拡大のチャンスととらえている。
「漢字入りTシャツを購入されるように、言葉の意味はわからずに見た目で購入していく方はいらっしゃいます。しかし、できれば日本の文化まで理解していただきたく、英語の説明書を付けたり英語版のかるたを作ったりしています」
東東京モノヅクリ商店街でも、英語を使って幅広いユーザーを対象とした製品の開発を企画している。
「シンプルでいて楽しく遊べるかるたは、きっとこれからもなくならない遊び道具。面白い作品を生み出していきたいですね」

INFORMATION

株式会社奥野かるた店 

〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-26

TEL:03-3264-8031

http://www.okunokaruta.com/