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「流行をうちの革から発信したい!」天野宝国3人のスペシャリスト

Update: 2018.11.13|CategoryTOPICS, よみもの

天野宝国は明治42年に創立された皮革卸の専門業者だ。一般的な牛革をはじめ、コードバンやペッカリーといった特別な革なども取り扱っている。海外から直接仕入れ、自社で研究開発した革を大手の問屋に提案するなど「開発力が一番の強み」だという、歴史と実績に裏付けされた天野宝国の3人のスペシャリスト達に話を聞いた。

 

まずお話を伺った天野さんは小さい頃から両親が革に触れているのを見て育ってきた。フランスに10年滞在した経験を活かし、現地の言葉で現地の革屋と直接交渉をし、エージェントを介さずに取引をしている。直接の交渉ができる分、値段の面でも他社と差別化できるという点も強みだ。

 

“皮革のダイヤモンド”と呼ばれるコードバン。

農耕用馬の臀部から採れる皮革のことで、主に革靴や鞄、財布などに使用される。国内で取り扱っているのは天野宝国含め2社ほどに限られており、12年ほど前から仕入れを行なっている。

 

90年代からずっと続いている状況として、現在国内で販売されている百貨店の2〜3万円台の靴は、海外の工場から大量に革を仕入れてノックダウンで制作されている。つまり外で制作されたものを現金化して内需に向けているということだ。それによって国内の資材屋で使われる需要が減り、国内で革を作ったとしても、量がまとまる仕事が海外に奪われてしまう。そんな中で天野宝国は、たとえ単価が高くなっても柿渋染めや藍染といった希少価値性のあるものを追っていくことで他者との差別化を図ってきたという。

「当たり障りのないものではなく、ひと工夫加えたものを作っていかなければ生き残っていけない。」という思いを常に根底に抱えている。

 

さらにもう2人のスペシャリスト、南田さんと松尾さん。

「私たちは革の特性を熟知しているので、トレンド、色などのニーズを把握して提案するのが得意。この近くにも革の競合が20社近くあり、差別化をしていかなければいけない。」と南田さん。

業界歴が30年以上の松尾さんは革の仕上げのスペシャリスト。様々な加工先の情報が彼の頭の中にぎっしり入っている。

「3人の専門がそれぞれ違う、3人1組なんだ。」と松尾さん。

1つの商品を開発するのに、10個以上はボツになる。しかしその過程で、靴で使用するはずだった加工がバッグにも使えたりするなど、技術を越境する瞬間もある。そういったトライ&エラーを繰り返し、常に新しい表現を追い求めていく。

 

メーカーがただ安く革を手に入れたいと思うならば直接タンナーと取引をすれば良いが、この業界でなぜそれができないのか。

「それは革は生き物だから。だから徹底的な知識が必要だ。」と天野さん。

部位によっても特性があり、雄と雌とでもまた違う。革巻き一つを取っても奥が深い。3人のスペシャリスト達は、それぞれ専門分野の異なる革のメディカル・ドクターのようだった。これから生まれる革の流行は、この3人のスペシャリスト達から発せられたものかもしれない。

 

文、Photo:吉田ちかげ